blast補完計画、始動 「これは収集活動ではない、文化事業だ!」
HIP HOP専門誌blast
そもそもblastとは?
『blast』は、かつてシンコー・ミュージック・エンタテイメントから発行されていたヒップホップ専門音楽雑誌である。(Wikipedia「blust」より)
当初は『FRONT』という雑誌名で1994年に発刊。月一で出版され、2007年5月号を最後に休刊している。編集や書き手として現在もHIP HOPライターとして名高い古川耕氏や磯部涼氏、高橋芳朗氏などが携わっていた。
その中身とは
内容はラップやDJが中心だが、グラフィティやブレイクダンスに関する記事もあり、総合的にHIP HOPカルチャーを取り扱っている雑誌であった。
刊行期間が日本のHIP HOPの黄金期であり、現在のレジェンド達のインタビューや当時の事件やイベントのレポートがゴリゴリ載っている。
例えば、現在手元にある2007年3月号(休刊になる2号前)では、今でこそ大ベテランの「サイプレス上野とロベルト吉野」が1stアルバムをリリースするタイミング、新人時代のインタビューが掲載されている。
もしくは、2005年4月号では、池袋bedで2005年1月8日に行われた「3on3 Freestyle Battle」のレポートが載っている。トーナメント表にはダメレコやライブラの文字が!
更に遡ると2001年9月号では「Jay ZとNasのビーフ」がリアルタイムの事件として取り上げられている!
間違いなくHIP HOP界の重要な参考資料だ
上記した通り、今考えたらありえないメンバー達が、当たり前のように記事に登場している。これは、私のように後年にHIP HOPカルチャーに触れた者にとっては、神話のようなものである。
インタビューやイベントルポだけでなく、広告ページでは当時モノの機材が取り上げられており、当時のHIP HOPシーンを知る上で、あらゆる面で資料的価値が高い。
blast補完計画に至るまで
blastとの出会い
私とblastとの出会いは、先輩ラッパーのN氏宅に遊びに行った時であった。
帰り際にN氏は自分のコレクションのバイナルやDVDなどの一部を私に引き継いでくださった。その中に、二冊のblastがあったのだ。
blastという雑誌は、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」にて宇多丸氏などが語っていたので存在自体は知っていたが、実物は見たことがなかった。デカデカと表紙を飾る50セントの姿に痺れた。
その後……
そしてしばらくたった今日、たまたま近所のBOOKOFFに立ち寄った時に、7冊のblastのバックナンバーが108円(税込み)で投げ売りされていたのを発見した。
俺達にとってのお宝が、108円(税込み)……!?
これは、救出しなければならない!保護し、保管しなければならない!
私はそこにあったblastをすべて買い物かごに移した。移さざるを得ない衝動に駆られた。
そして帰宅後、購入したblastを読みながら考えた。これは、まだ氷山の一角で、この世界には投げ売り同然で中古市場に出回っているblastがあるのではないかと。
HIP HOPの5つ目の要素
HIP HOPの4大要素といえば、言わずもがなRAP、DJ、グラフィティ、ブレイクダンスである。
これにアフリカ・バンバータは5つ目の要素を加えた。それは「知識」である。
バンバータが言うところの「知識」は、HIP HOPそのものの歴史知識やジャンルのマニアックなオタク知識ではなく、ゲットーで生き延びる為の「知識」を指していただろう。
だが、日本の中流家庭出身の私にはゲットーで生き延びる為の「知識」は必要ない。必要なのはこの現代日本社会を生き延びる為の「知識」である。
そのために私は敢えて「HIP HOPそのもののオタク的な知識」から学んでいくことにした。それを通してHIP HOPを学び、どんな場面であれ対応する「問題解決の手法」としてのHIP HOP(本来のHIP HOP)を見出したかったためだ。
そしてクール・ハークから始まる歴史を学び、その変遷を調べていった。そこでHIP HOPの基本概念やオールドスクール世代のことはある程度勉強できた。
しかし90年代から現代までのHIP HOPカルチャーに関しては、まだ学術界的には日が経っていない時代であり研究の対象になっていない。その為研究している書物自体が少ない。また、90年台にHIP HOPシーンは爆発的な広がりを見せているため、枝葉の知識まで拾い上げている媒体は少ない。
近年レジェンドたちが自叙伝を出版したりしているが、日本語資料に絞ると出版されているものは極僅かだ。
そこでblastですよ!
blastはリアルタイムで当時のHIP HOPシーンの状況を映し出している。資料的価値は前述のとおりだ。
つまり私が一番手を出せていなかった年代の「知識」をカバーしてくれる真の解決策なのである!
blast補完計画、始動
蒐集しないわけにはいかない!
以上の理由から、私はblastのバックナンバーを中古市場から探し出し、救出、揃えていくことにした。
blast補完計画である!
これは単にコレクションしていく活動ではない。コンプリートし、読破し、「知識」を自分のものにしたあとは、見込んだ後輩に受け継いでいくつもりだ。これはある種の文化事業である!
昨今、図書館の資料が書庫を圧迫しているという理由で燃やされてしまった事件があった。言語道断である。どんな本にも価値はあり、残っている限りいつかその価値が誰かに必要とされる時が来るはずだ。
blastは一つの文化資本であり、古書店の雑誌コーナーで眠らせるべき本ではない。今まさにこの時、その価値を求めている人間が、少なくともここに一人いるのだから。
計画の今後
当面は古本屋にて捜索を続け、発見・救出完了ししだい、このブログにて進捗を報告する。
ちなみに2018年9月6日現在、手元にあるバックナンバーは
- 2000年3月号
- 2000年9月号
- 2000年10月号
- 2001年9月号
- 2001年12月号
- 2002年8月号
- 2002年10月号
- 2005年4月号
- 2007年3月号
の、9冊である。月刊誌なのでおそらく全部で150冊ほどのバックナンバーがあると予想される。道のりは長い。
またバックナンバーを掘り当てたときには、その報告記事の中で感想なども同時に書いていく予定だ。